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『インフルエンザの発症を抑制できるワクチンを体内に生成するための蛋白質』

「風邪、うつりますよ。」
「大丈夫、ワクチンは接種済みですから。」

こんな会話は過去の話。
その時代には人類全員の遺伝子に、「インフルエンザの発症を抑制できるワクチンを体内に生成するための蛋白質」が組み込まれていた。
そのおかげで人類は生き残れたが、感染しても発症しない人類は「ウイルスを全世界にばらまく脳天気な媒体」と化していたので、他のほとんどの動物は風邪をうつされ絶滅してしまっていた。
家畜やペットの遺伝子には同じ蛋白質が組み込まれていたから、食料にも愛情にも飢えることはなく、「人類に生まれてきて良かった」などと勝利者のように思いながら生きながらえていたのだった。

そんなときに事件が起こった。
種を残すための戦略を植物たちが突然変更したのだ。
異変はまずキャベツから始まった。
なぜなのかはわからない。
突如、全世界中のキャベツの葉に毒物が分泌されるようになってしまったのだ。
つまり、キャベツは人類との共生関係をご破算にして、ひとりで生きて行くことを選んだのだった。

これにならうように、全植物が次々と毒物を分泌し始めた。
毒物を生成させている遺伝子を突き止めようと科学者たちは懸命な努力をしたのだが、なぜか見つける事ができない。
しばらくの間は、化学合成をすることで人類と家畜とペット分の食料を確保し、なんとか凌いでいたのだが、やがてこれまで当然だった化学反応まで起こらなくなってしまう。
そうして大気の成分まで変化しはじめ、
「どうやら嫌われているらしい、、、でも、誰から?」
と気付いた人類は一大決心をすることになる。
「地球を捨てて火星に行こう。」

人類は最後の知恵をしぼり、箱船のような宇宙船で地球から脱出することに成功したのだった。
「これこそ進化だ!」
歓喜の声が火星を目指す宇宙船のあちらこちらから湧き上がった。

「風邪、うつりますよ。」
「大丈夫、ワクチンは接種済みですから。」
地球の警告に火星が応えた。
宇宙空間は人類に永遠を約束しているかのように真っ暗だった。
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by betorium | 2006-03-04 01:22 | 小説